36歳都内在住、既婚女の日記

夫婦で自営業の妻。飲食店。乳児の母。育児の不安に加え、なにかと不安な36歳。

妬みの変化とマタニティブルー

予測変換、というのは恐ろしい。


妊娠が確定し、私はふと「そういえばマタニティマークってどこで貰えるんだろう、どこかで買うのかな?」と疑問に思った。病院で配っているわけでもなさそうだし、雑貨屋などで販売しているのを見たためしもない。


なので検索してみることにした。何気なくスマホマタニティマーク、と打ち、スペースをとったところで驚愕する。

 

ここ最近でバックル外し、などの物騒な事件が発生している中で、私という人物の汚い性根をさらすこのようなことを申し上げるのは避けるべきかもしれないが…
不快な方もおられると思うので先に謝罪させていただきたい。もしくは読み進めるのをお止め頂ければと思う。


私の検索画面には「マタニティマーク」「死ね」と続いたのである。ネットの検索上位ワードではなく、あくまで個人の私のスマホの予測変換だ。


ああ、そうだった。あのマークを見るのに虫唾が走っていたのだった。表面上、電車の中などで遭遇すれば席も譲るし親切を働きもしてきた。だけど、

疲れた深夜に夫も先に就寝し一人で深酒をあおる時、私はそのようによく検索したのが事実であった。死ね、と。つい最近も、そうしていたことを思い出した。


確か、ほんの一カ月程前のその日はお客様のご懐妊の話にその場では笑顔でおめでとうございます!とお祝いの言葉を申し上げつつ、業務的にたまたまワインの事で振り回された日で、営業が遅くなりだいぶ酒も入ってしまった日であった。お腹を愛おしそうに撫でるその女性のお姿を拝見しながら、我が身を思うと毎日酒酒酒酒酒、他に自分の人生には何もないのか?とそれまでに幾度となく繰り返してきた虚無感に襲われたのだ。ドロドロと熱い怒りにも似た感情がまるで内臓を焼くかのように煮えてくる感覚を持て余し、家に持ち帰っても消化できなかったので久しぶりにそのドロドロが私を支配するに任せた。

 

つい最近のことなのに。
それを失念した上、無邪気に「どこで貰えるんだろう?」なんて思った自分に一気に冷めた。自分の調子の良さが気持ち悪いなとも思った。

 

長い間、妊婦の姿など視界に入れたくなかったものである。
よく、人の幸せを妬むなと言われるが私は妬むし、妬んできた。
なぜなら妬むまいとしても妬ましいからだ。妬みたくて妬むわけではない。それを努力が足りないとか子供っぽいとか人間としてダメだとか言われたとしても、知ったことではない。
人に測られることは何も怖くない。自分が自分を否定することだけが怖い。人を妬むつまらない自分は私も大嫌いだが、そんな自分を自分の他に誰が受け入れてくれよう。

 

そう思いながらふと、人を羨み妬んできた自分を受け入れているわりに、無邪気にこの妊娠を喜ぶことを自分に許していないのだな、ということにも気が付いた。そしてそれが、過去の自分の思考の癖によるものだと理解したとき、これが妬みのもたらす一つの結果なのだなと腑に落ちた。


この時期というのはいわゆる妊娠三か月、週数でいうと12週くらいであろうか。安定期まではまだしばらくかかる。
私は嘔吐恐怖症のためつわりによる吐き気を大変恐れていたが、幸いにも結果としてこれまで嘔吐には至っていない。(出産がこれからであるので、出産時の嘔吐がまだ心配ではあるが…)


とはいえ匂いに敏感になっていくのを感じていた。また何となく胃がムカムカしたり、空腹を感じても何も食べたい物がなかったり、食べたいタイミングがあまりにも瞬間的過ぎてタイミングを逃し、食べられなくなってしまうことはよくあった。そしてこう言うとナチュラリストのようで嫌なのだが、この時期の私はとにかく添加物の味がダメになり、それまでさんざん食べてきた大手チェーンの中華屋さんやコンビニ弁当、カップ麺などが気持ち悪く感じた。また大好物の生魚や酢飯の匂いもダメで、お寿司屋さんの前を通ることは苦痛と化した。コーヒーの匂いも嫌だったので、近年当たり前になったコンビニでのコーヒー販売により、コンビニそのものが苦手スポットとなった。

 

ちなみにその頃からアルコールの匂いがとにかく臭く感じるようになったため、店にいるとだんだん気が滅入るようになった。ワインの抜栓時というのはコルクを必ず確認するわけだが、その一瞬が辛い。グラスにそそぐ際に立ち上る香りも、ワインに限らずビール等の他のお酒の匂いも、臭い。「臭いけどなんとか我慢が可能」だったのが1、2週間のうちに
「マジで勘弁してください」レベルに辛くなってきた。

 

同時にニンニクに火が通る匂いと、ラム肉がローストされる匂い、そしてこの商売をしていながら申し上げるのが非常に忍びないのだが「酒を飲んだ人間の匂い」が猛烈に耐えがたくなりつつあった。なんと説明すればよいのか分かりかねるのだが、皮膚の毛穴から湧いてくるとでもいうべきか。そしてそうなるとその人その人の体臭がはっきり反映された匂いとなる。どんなに身ぎれいにされている若い女性であっても、アルコールが入った時点でその匂いは誰しもに生じる。
ニンニクとラムについては、そのオーダーがあるときのみ発生する匂いであるためまだ良い。無理な時は店の外に逃げられたからだ。
ただ「酒の匂い」「酒を飲んだ人間の匂い」というまったき別物でありながら必ずセットで常時店内に存在する、私の嗅覚を苦しめる2トップには長期的に泣かされた。


それは先述の「この商売をしているのに」というおのれの立場を自覚すればするほど、自分を追い詰めていく事柄であり、一般的に16週目からを指す妊婦としての安定期にも、心から安定を奪うきっかけでもあった。
今現在もまだ完全に晴れることのない、「酒を提供する店を自営ですること」と「母になること」との距離感における霧のようなものが、敏感になる嗅覚と共に立ち込め始めていく。私はこの先、やっていけるのであろうか?酒を出す店のおかみとしてすべきことと、妊婦としてすべきことのギャップが埋まらない。また体調面でも、深夜にかけて働くことが怖く感じる。この頃から私は俗にいうマタニティブルー、が爆発することとなる。

ちなみにマタニティマークは役所へ妊娠届を提出した際に健診補助券と一緒に頂戴致しました。あとJRの駅。続く。