37歳都内在住、既婚女の日記

夫婦で自営業の妻。飲食店。1歳と0歳の姉妹の母。少々病み気味、西東京出身、東東京在住。プロテスタント。

それいゆ

私がそれいゆに入らせて頂いたのは、高校在学中のことである。何度か触れている通り、通信制の学校であったので日中はアルバイトをしていたのだ。その以前から働いてはいたのだが、なんとも情けない事に16歳で初のギックリ腰をやらかしてからというもの、当時勤めていたパン屋さんなどでの業務は「立ち仕事+その場を動かない」というのがかなり辛く、かといってその年齢で事務仕事というわけにもいかず、せめて「立ち仕事+歩き回る」業務に就きたく思い、飲食店のホールバイトを探していたのだった。

 

それいゆには働く以前からお客さんとして時折行っていた。確か、その日は腰を本格的に痛めて全てのアルバイトを辞め、無職になっていた頃に母と珈琲を飲みに行ったのだ。するとスタッフ募集の張り紙があり、母に「聞いてみなさいよ」と背中を押され、その場でお会計時に尋ねて後日、面接ののち採用して頂いた。

 

当時私が行く時間帯に働いていた女性スタッフが、とても優しいお姉さんだったので安心して入ったのだ。だが入ってみたらそのお姉さんがお辞めになるというではないか。そうか…仕方ないよな…と思いつつ、勤務初日にそのお姉さんスタッフへ何か質問をしようとした私は「お姉さん」とその方を呼んだ。

 

すると目にも止まらぬ速さで「シッ!!」と私を制止するではないか。そして言った。「恵ちゃん、ダメ。このお店ではおねえさんというのはお姉さんたちのことなんだから」と。

 

「?」

よく分からなかったが何やら地雷を踏んだ感を肌で感じたので、以後気を付けた。そして今となっては広く知れ渡っておられる通り、経営者である「おねえさん達」にお世話になっていくのであった。

 

その女性が辞めると、パートの主婦の方二名を除くとバイトスタッフが自分以外全員男性であることに気づいた。正直、カフェとか喫茶店のバイトって女の子が多そうと思っていたので、ギョッとしたのを覚えている。そして皆さん個性豊かでタイプがバラバラであった。「きっとこの男性陣同士は、学校とかで出会ってたら仲良くならなそう」と勝手ながら思いを馳せて見ていた。(実際には皆さん仲良しでしたよ、念の為)

 

学生時代の私なんぞ単なる生意気なクソガキだったので、皆さまには失礼を多々してきたと思う。でもいつも温かく、バイト先なのだが家のような安心感があった。5年くらいお世話になった。

 

辞めた後も事あるごとにお邪魔させて頂いた。水出し珈琲の器具を中心にして店内に存在する空間は、いつもコンパスのようだなあと思う。メディアにも取り上げられている今はより一層混雑していることと思うが、どんな層のお客さんがいても飲み込んでしまうようなお店の色。混沌としているようで、それはいつもシンプルな原色のように私は感じる。

 

今はどうか知らないが、勤めていた頃の仲間たちはほとんど他県出身であった。上京してきた若者だ。それまで同じ都内の友人知人しかいなかった私にとって、自分にとっては地元であっても、東京という場所はあらゆる所から人が集まる場所であることを漠然と感じた。端的にいえば「隣人が常に同郷ではない」という気付きであり、ちょうどその頃学校で「東京」をテーマに一本書けといわれていたところだった為、自分の考える東京の特性として、そんな事に触れたように思う。

 

20代の半ば過ぎ、離婚を機に杉並区へ戻った私は久々にそれいゆへ行った。情けないやら不甲斐ないやらで恥ずかしい思いであったが、上のおねえさんがそんな私の報告を、ただただ「うん、うん」とニコニコしながら聞いて下さった。そして「何にも恥ずかしくなんてないのよ、頑張りました。これから元気に楽しくやれば良いのよ」と、私をハグして下さった事に、どれだけ励まされたことか。パンプキンパイの素朴な甘さと相まって、優しさ極まりない。

 

お店の空気に通ずることだが、おねえさん達の、またそれいゆの凄さは「人や物事を否定しない」ことに尽きる。多くのお客さんを受け止めるキャパ(物理的面積ではなく)が、類をみないほどのキャパだと思う。普通なら慌てそうな事も、たいがいの事には「あらそう」と言ってしまうおねえさん達がいる。あまり書くと怒られそうだから控えめに言うけれど、おねえさん達は誠にキャラがぶっ飛んでおられるため働いていた頃はよく度肝を抜かされたもののだ。

あんなふうになりたいなと今はよく思う。あの溢れんばかりの優しさ、温かさを自分より若い世代の人達へたっぷりと注ぎ込むのはやっぱり振り出しに戻るけど、優しいんだよなぁ…。

 

臨月にもご飯食べに行きました!鉄骨パスタもナスのチーズスパもカレーもケーキも勿論水出し珈琲も大好き。未だにそれいゆの人々とは繋がっているのも、本当に幸せなこと。娘も一緒にまたお邪魔できる日を楽しみにしつつ、これからもずっとずっと、それいゆの大ファンです。