37歳都内在住、既婚女の日記

夫婦で自営業の妻。飲食店。1歳と0歳の姉妹の母。少々病み気味、西東京出身、東東京在住。プロテスタント。

春を巻くとは

皆さんには、忘れられないあの人というのはおられるであろうか。人によっては、過去の恋人の存在があまりに大きく、その後別の存在と新たに出会い、また付き合い、距離を縮めても尚、その存在を超えることができず、目の前の相手に申し訳なさが募り、しかしそんな本音を抱いている己れにこそ苛立ちは向き、もう変わりたいのだなどという思いでますます強引に新たな関係を結ぼうと躍起になる…

 

そんな経験ありませんか。私、あります。恋愛では全くしたことないですが春巻にだけはあります。私にとって、「超えられない過去の恋人」とは銀座アスターの春巻なのである。ごめん煽りすぎたわ。

 

私、春巻が大好物なんですがね。私が小さい頃というのは吉祥寺に近鉄があって、そこに銀座アスターが入ってたんですわ。説明端折るけど、毎週行ってたんですお昼に。

 

大人になって、アスターより安くて旨い店なんか沢山あるし、逆に話にならんくらい高級で洗練された中華があることなんぞは学んで分かってるわけだけど、私にとってアスターの春巻とは「ポン酢=味ぽん」くらいの馴染みであるんですよ。いやまあポン酢も最近色々あるけどさ。昔はポン酢って味ぽんしかなかったじゃん

私ゃ春巻っつったらアスターの春巻なのよ

塩山椒で食べるやつ。

 

日常でふいに、春巻食べたくなって

惣菜やコンビニや冷食はもちろん、行った先の中華料理店でとか、誰かにオススメされたりとか、評判高いやつとか、手当たり次第食べてはきたよ。

 

いつも、口に運ぶ瞬間に願うのよ。どうかお願い、私にアスターを忘れさせて、と。夢中にさせて、と。でも、一度もあの人を忘れさせてくれるような存在はなかった…

 

前置き長くなったけども。何故こんな話してるかというと、昨日実母から「両国にできた春巻屋さんていうのがTVに出てたよ」と聞いたわけ。春巻屋…?!

 

東大島にそのようなお店がある噂は小耳に挟んでいたが、もしかして支店が両国にやってきたのではなかろうか?前から興味があったものの、その噂をきいてから妊娠を繰り返したため、そのお店には行けていなかった。検索するとビンゴ、まさにそのお店が徒歩圏内に出店されているではないか。

 

「自分で買った物が届いても数日封を切らない」くらい腰の重い私が、母からの話を受け即、お店の場所を調べ、先日ギックリ腰をしたばかりでまだ痛む身体にロキソニンの湿布を貼りたくり、年子ムスメーズを連れ春巻屋へ繰り出した。彼女達もなかなかパワフルになっており、私1人で連れ出すことは日々難儀を極めるがそんな事は言っていられなかった。

 

最近言葉の習得が著しい2歳の長女が、移動中に「ママー、どこいくのー」と聞いてくる。「春巻買いに行くんだよ」と答えると、ハミガキと間違えており終始ハミガキハミガキ言われながらも私はひたすら春巻屋を目指した。

 

同時に、失望の覚悟もしていた。あの人を超えるわけがない…ああ、それは出会う前から失礼な態度と知りつつも、期待の分だけ傷付く繰り返しは、私の心を臆病にさせた。ただ、好きになりたいだけ。

 

辿り着くと、非常に感じの良い店員さんが注文した分を揚げてくれた。私は今日の夕飯にするつもりで買ったが、目の前で揚げたてを買ったらまあそりゃもう、すぐ食べたい。「君が傷付いてきたことは知ってる、分かった上で君に言うよ愛してる」くらい言われる衝撃が「揚げたて」にはあると言える。

 

年子姉妹を抱えつつ大急ぎで帰宅し、姉妹がバタバタしている隙に早速口にした。もはや「付き合おう」とかの口約束もないままにベッドインしたような気持ちだ。仕方ない。揚げたてというのはそれくらいの魅力である。

 

ああ…

 

 

巡りゆくあの人の記憶。いつも私の1番だった。あの人しかいないと思ってた。あの人に似た人を探すから、いつもあなたの二番煎じにしか感じられなかった。そうじゃない、あなたとはまるで違う人。まるで違うのに、私、惹かれてる…

 

餡のとろみについて、具材について、みっちり加減について、味付けについて、皮について、大きさについて、全てのことがまったく異なるこの人だけど、私、この人のこと好きになる…

 

あなたはいつも気取ってた。大した器でもないくせに、着飾っていた。でもその着飾りは本当に似合っていて、あなたらしさだったの。これからもあなたに会いたい時は素直にあなたに会いに行くわ。私に喜びを教えたのは紛れもなくあなたなのだから…

 

でも今日出会った彼は、何も着飾っていなくて

きっと私以外にも優しいんだわ。その優しさに妬いてしまうかもしれない。でも今は優しい人が好きなの…

 

 

大判の春巻は餡らしきとろみはほぼなく、しかし綺麗にぎっちりと具が詰まっており、またしっかりと味が付いていて付属のタレも不要かと思ったものの、タレもまた美味しくて、私は幸せな気持ちでいっぱいだ。

 

ねえ春巻よ。中国って別に好きじゃないけど中華料理ってマジで世界中の胃袋牛耳ってるよ。だって美味すぎるもの。ああ、歩いて美味しい春巻が買えるなんて、めっちゃ生活の光。

 

おいしく頂きました。またすぐ買いに行くと思う。そして私、まだまだ出会いたいわ。